システム思考とSTAMP

世の中のいろいろなモノやコトを「システム」として考えることと、その道具の一つであるSTAMP/STPAについて。

「コントロール」について(2)

前回の記事で、システム・オブ・システムズ(SoS)の例として、証券取引市場を介してアルゴリズム売買を行う多数のコンピュータが繋がった状態を取り上げた。そして、そこで稀に起きる現象である「フラッシュクラッシュ」をSoSの創発性だと書いた。

 

以前の記事で、"Engineering a Safer World" からの引用を示した。それによると、創発性は、下位階層の動作に制約が課せられる結果として、上位階層に生み出される性質である。また、上位階層から下位階層に対する「コントロール」が下位階層の動作に制約を課す。

 

以下、以前の記事に示した "Engineering a Safer World" からの引用の再掲。

 

The operation of the processes at the lower levels of the hierarchy result in a higher level of complexity—that of the whole apple itself—that has emergent properties, one of them being the apple’s shape.

「下位階層でのプロセス間の作用が、上位階層における複雑性をもたらし、その複雑性が創発性を持つのである。」

 

An example of regulatory or control action is the imposition of constraints upon the activity at one level of a hierarchy, which define the “laws of behavior” at that level. Those laws of behavior yield activity meaningful at a higher level.

「規制またはコントロールアクションの一例は、ある階層レベルの動作に制約を与えることである。」

「その制約により、その階層レベルにおける『振舞いの法則』が定められ、それが上位階層での意味のある振舞いを生み出す。」

 

 

この理解に基づけば、フラッシュクラッシュの現象(創発性)も、何らかの「コントロール」によって生み出されているはずである。その「コントロール」とは、何だろうか?

 

証券売買の注文を出すコンピュータは、その判断をサイコロを転がしてランダムに決めているわけではもちろんない。正確なところは分からないが、相場の変動の様子に応じて売り・買いの判断を行うようなアルゴリズムが組まれているのだと思われる。

 

つまり、各コンピュータの振舞いに制約を課しているのは、相場(取引価格)の情報だということになる。

 

したがって、証券取引市場が、アルゴリズム取引を行うコンピュータに対して開示する相場の情報が、「フラッシュクラッシュという性質を創発した振舞いの制約(=コントロール」であると見ることができるのではないか。

 

相場の情報は、取引をする人たちの行動に何らかの制約を課したり誘導したりすることを意図したものでは、もちろんないだろう。単に、「事実」としての情報である。

 

システム理論でいう「コントロール」の概念とは、何らかの意図や目的を持って行われるものだけに限らず、単に「そこに在る」ものが、結果としてある階層の振舞いに制約を与え、上位階層に創発性をもたらすものであるなら、その「そこに在る」だけの存在も「コントロール」になり得るのではないだろうか。

 

STAMPの制御構造図を考える際も、「コントロール」に対してそのような認識で考えるとよいのではないかと思う。

 

そういえば、「太陽系」としての様々な性質(創発性)も、「重力」がコントロールの一つであると考えることができそうだ。「重力」は、単に「そこに在る」存在であろう。(あるいは、意図を持って与えられたものなのだろうか? ただ、システムの創発性について考える際は、それはどちらでも構わないことだ。)