STAMP/STPAで、control structure diagram (制御構造図)を描く際、どのような control action を描けば良いかに悩むことが多い。control action は、STAMP/STPAの手順において重要なので、センスの悪い control action を描いてしまうと、分析の効率や質に影響する。分析対象のシステムをじっと睨んで、control action を浮かび上がらせるような作業になる。
コントロールとは何か
「コントロール」という言葉は比較的、日常でも使われる。「ピッチャーがボールをコントロールする」とか、「体重をコントロールする」などと言う。
「コントロール」とは何であろうか?
"Engineering a Safer World" (Nany Leveson著)では、システム理論に関する解説の箇所で、次のように書かれている。(第3章から一部抜粋して和訳)
「創発性」自体は、良いとか悪いという価値観を含まない。単にシステム全体の性質である。日常使う言葉としての「コントロール」は、ふつう、何か良い結果を得るためのものであるが、システム理論での「コントロール」は価値観を含まないニュートラルなものであるようだ。
しかし、STAMP/STPAは「安全」を得るためのものである。したがって、良い・悪いの価値観が前提にある。
それを踏まえ、上記の "Engineering a Safer World" の説明に基づいて考えると、「『コントロール』とは、システム全体の性質がある目的に沿うものとなるように何らかの制約を与えるもの」 と言えそうだ。
言い方を変えれば、「それがなければ、システムの要素は勝手気ままな(予測できないランダムな)挙動を見せ、システムの目的の達成が難しくなる」という「それ」を見つければ、システムにおける「コントロール」が見えてくるのではないだろうか。
ピッチャーがボールに対して適切なベクトルの力を加えることがなければ「ボールがストライクゾーンを通過する」という性質は得られにくく、食事や運動の量を適切に変動させることがなければ「体重の増減が一定の範囲に収まる」という性質を得ることが難しい、ということだ。
control structure の検討におけるコントロールアクションの見つけ方
STAMP/STPAで分析するシステムにおいて、分析目的に沿うcontrol actionとして何があるのか?それは、パッと目で見えにくいものである場合もあり、常に容易に見つかるとは限らない。
上に書いたことを踏まえれば、次のような順番で考えると良いのではないだろうか。
つまり、「何がシステム全体の創発性に寄与しているか」の本質を見出すことが重要である。
これは、それほど簡単なことではない。日頃から、身近なものを題材として「システムの本質を見出す」訓練をすると良いのではないかと思う。
システムの”コントロール”を見つける練習
例えば、なんでもよいが、ちょうど目の前にある「椅子」を題材にしてみる。椅子も「システム」である。
この「椅子システム」の目的は、例えば、「座面に人が座り、その体重を安定的に支えること」という見方ができる。
この目的を満たすようなシステム全体の性質は、どのようなコントロールによって得られているのだろうか?
まず、座面は、人の体重を受ける。
次に、座面は、その体重を4本の脚に伝える。4本の脚が、座面から伝えられた体重を床に伝え、床がそれを支えることで、「椅子システム」の目的が達成される。つまり、4本の脚は、そのように働くことが求められる。単に4本の脚を立て、その上に座面をそっと乗せただけでは、それは一見「椅子」に見えるかもしれないが、目的は果たせない。
したがって、4本の脚は、単に「頑丈な素材の長い棒」であるだけではだめで、上記のようにして目的を達成できるような「制約」が存在する必要がある。具体的には、座面と脚は、釘やボルトなどによって、力が横方向に逃げないように結び付けられ、座面が受けた体重が脚を経由して床に伝達されるように「制約」される必要があるわけである。
「座面」は、このようにして「4本の脚」に「制約」を課しており、それが「椅子の目的たる性質を創発するためのコントロール」であると言えるのではないだろうか。
身近にある、ほぼすべてのものは「システム」と見ることができる。身近なものを「お題」として、「そのシステムを成立させている本質は何か」を考えてみると面白い。
日頃「当たり前」と見過ごしてきたことが、実は当たり前ではないことに気づき、それが現実のものとなっていることへの感謝の気持ちも湧いてくるかもしれない(?)